日本貿易会常任理事に聞く2016年の展望

2016年の世界経済の展望および経営の抱負等について、日本貿易会常任理事へアンケートを実施しました。
①2016年の経済、ビジネス環境を展望する上で、注目する要因(けん引・懸念材料)
②2016年の注視、注力する点および経営の抱負
(社名五十音順)

稲畑 勝太郎 稲畑産業株式会社 社長


①SDR構成通貨への採用が決まった人民元の動向を含め、中国経済の動きに注目する。産業別・地域別に一律ではないが、まだまだ成長余力があり、世界経済のけん引役として期待される。一方でシリア・イラクを中心に勢力を広げるISをめぐる一連の問題は、欧州で広がる難民問題も含め、大きな懸念材料である。

②2016年は中期経営計画の最終年度であり、重点施策で掲げた6項目を中心に目標の達成に全力で取り組む。営業面では、特に新エネルギー分野、ライフサイエンス分野の育成、車両分野の拡大に注力し、管理面ではコンプライアンスの徹底に加えてグローバル経営インフラの整備を加速したい。

牧野 明次 岩谷産業株式会社 会長


①為替および、原油、LPガスなどエネルギー価格の不安定といった懸念材料はあるものの、賃金水準上昇による消費拡大、法人税減税による企業の設備投資促進が期待される。また、TPP合意による世界経済の4割に当たる自由貿易圏の形成、引き続く訪日客の拡大、そして政府の追加経済対策が経済拡大を後押しすると考えられ、先行きは明るい。

②米国産LPガスの輸入推進、調達先多様化で安定供給に努める。今後の電力・都市ガス小売り自由化は新たな事業機会と捉え、他社と連携して事業拡大を図る。3月までに水素ステーション20ヵ所を整備するとともに、水素製造プラントの増設を図り、水素エネルギー社会に向けた事業基盤の構築を進める。産業ガス、マテリアル事業では、中国・東南アジアを中心とした成長地域へ集中展開し、海外事業拡大を図る。

下嶋 政幸 兼松株式会社 社長


①中国経済と原油価格の動向は注視している。中国経済の減速は、周辺国・欧米諸国への波及や、商品価格への影響も大きい。原油価格は長く低迷しているが、反転のタイミングを捉えればチャンスにもなる。その他、米国の金融政策転換や、中東をはじめとした地政学的リスクにより環境が急変する可能性を念頭に置く必要があろう。

②2016年3月に現中期経営計画が終了し、その後は2019年3月までの中期ビジョン「VISION-130」の達成に向け、ギアを一段切り替えてまい進していかなければならない。ICTソリューション、モバイル、北米シェール市場等の主力分野に加え、TPP発効、グローバル・モータリゼーションの加速といった新たな変化を商機とし、安定かつ確実な成長路線を確立する。

三輪 芳弘 興和株式会社 社長


①全般的には緩やかな回復を予想するものの、米国の利上げの影響と中国経済の下振れは注視すべき。米国の利上げへの過剰反応による世界的な調整圧力や、中国経済の想定以上の減速による各国の中国向け輸出低迷、資源価格の下落が景気低迷を長期化させるリスクがある。一方、TPPの発効やASEAN経済共同体の発足などの成長機会をしっかり捉えたいと考えている。

②『健康と環境』をテーマとした事業展開の中で、特に医薬事業のグローバル化を加速させる。新たなコンセプトを基にした高脂血症治療剤の発売が秒読みの生活習慣病領域や、世界初の作用機序を有する緑内障・高眼圧症治療剤をはじめ、眼内レンズ、医療機器などの眼科領域という医療用だけでなく、コンシューマー向けのOTC医薬品、ヘルスケア関連製品の展開にも注力し、幅広い健康ニーズに応えたい。

圡井 宇太郎 CBC株式会社 社長


①利上げ実施後の米国経済の動向および為替動向を注視している。米国の継続的な利上げに伴う新興国からの資金流出や原油価格のさらなる下落による新興国、産油国および中国の経済波乱の可能性やテロ活動の活発化による世界経済への混乱が懸念される。一方日本経済は、米国経済の堅調とエネルギーコストの低下という恩恵により、おおむね順調に推移するとみている。

②2016年度もグローバルベースで医薬関連事業、環境対応型農業製剤事業(IPM/総合的病害虫管理)を推進するとともに、高齢化社会への対応として富裕層向けの介護関連ビジネスやIT・自動車関連分野においても成長分野に特化したニッチでユニークな製品やサービスの開発に注力し事業拡大を図っていく。

矢島 勉 JFE商事株式会社 社長


①国内では、企業業績が好調に推移していることによる設備投資の増加、建設分野でも大型プロジェクトが徐々に本格化することで、堅調な鉄鋼需要が期待される。一方、海外の鉄鋼分野では、中国ミルの過剰な生産が継続し、さらに各国のAD提訴による締め出しにより中国製品が市場にあふれており、厳しい環境が継続すると見込まれる。

②販売・加工のさらなる一体化によるキメ細かいサービスの提供や、建材・鋼管分野等において工事管理・管材供給等を通じて付加価値を創出することで、高度化するお客さまニーズに対応する。
また、海外新規市場の開拓を進めるとともに、M&A・出資等により系列化した各社の販売網を活かし、地産地消のビジネスを積極的に展開する。

先濵 一夫 蝶理株式会社 社長


①景気は緩やかな回復基調が続いたものの、インバウンド効果や高額品需要を除き、個人消費は依然として力強さに欠ける。また、中国を中心とした新興国経済の成長減速が顕著となったことで世界経済への下振れリスクが高まり、先行き不透明さが急速に増している。

②2014年4月にスタートした中期経営計画「躍進2016」の中間点を経過し、その成果が着実に表れてきた。目標達成に向け、基本戦略である「連結経営基盤強化」、「人的基盤強化」と「新規開発・M&A」を加速させる。世界経済には不安定要素はあるが、グローバル展開を一層進展させ、連結経営基盤の強化を図る。

朝倉 研二 長瀬産業株式会社 社長


①米国経済は堅調に推移するとみるが、金利政策の動向とその影響に注目。特に当社の主な事業領域であるアジアにおいて各国通貨の対米ドルへの動きを注視。また昨年より減速傾向にある中国経済の先行き(通貨の国際化への動き、人件費上昇、ビジネス構造の変化)、欧州ならびに西アジアの地政学的リスクが世界経済に与える影響にも注目。原油価格は低レベルで推移すると予想、世界規模での石化業界の再編・淘とう汰たにも注視が必要。

②グループにおける理念体系を見直し、創業200周年を迎える2032年に向けた長期経営方針を2015年に策定、その方針に沿った新中期経営計画(5ヵ年)を2016年度よりスタートさせる。収益基盤の変革、企業風土の変革を柱にこれまでにない規模での事業投資も積極的に実施していく予定。「全員参加」で目標達成を目指す。

樋渡 健治 日鉄住金物産株式会社 社長


①けん引材料は、政府の成長戦略、経済対策と震災復興・国土強靭じん化の取り組み、2020年夏季オリンピック・パラリンピックに向けた首都圏の再開発、および、インバウンド需要の拡大や消費税増税前の需要の前倒し。懸念材料は、中国経済の下振れ、米国の出口戦略に伴う新興国経済への影響や急激な為替変動、および、世界各地域の地政学的リスクに伴う不安定化。

②マクロ環境の変化を見据え、鉄鋼、産機・インフラ、繊維、食糧の四つの事業が相互補完しながら収益を確保し、一方で将来に向けてグローバルな成長を取り込む体制を一層強化する。 また、急激な環境変化やリスクの顕在化への備えを万全にするとともに、グループとしての一体感を持って、複合経営によるシナジーをあらゆる角度から追求していく。

古川 弘成 阪和興業株式会社 社長


①日本経済は2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、景気の底堅さを感じられるが、今後の新たな景気刺激策を持続的成長へつなげられるかどうかが大きなポイントとみる。海外では、中国やそれを取り巻く新興国・資源国の景気減速の原因となっている過剰生産力と需要のギャップをいかに縮小できるかを試される年になり、早期の回復を期待する。

②さらなる業容の拡大を図るために「総合力」よりも「専門力」強化に注力し、スピード感を重視したM&A+A(合併と買収プラス戦略的業務提携)を国内外で積極的に推し進め、阪和グループ全体の成長戦略を具現化する。またHKQC(Hanwa Knowledge Quality Control)活動を体系的に行い、流通としての業務品質にこだわり、コーポレートガバナンスを強化して企業防衛に努める。

宮﨑 正啓 株式会社日立ハイテクノロジーズ 社長


①日本は金融緩和の継続やオリンピック関連投資の増加により、堅調に成長するものとみられ、米国も雇用環境の改善や内需の拡大により堅調な成長が持続すると予想される。一方、欧州は南欧諸国の景気の底入れにより回復基調だが、政治不安など予断を許さない状況が続く。また中国での経済成長率の伸びの鈍化による世界経済への影響が懸念される。

② 2016年は、今世界で起こっている、グローバル化、IT化、多様化、変化のスピード化に対応していくため、「変化への挑戦=Challenge to Change」を加速推進する年にする。お客さま視点に立った「個別化」と「専門化」の追求、全員経営・自律分散型組織への転換を引き続き図っていく。

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