世界のダイナミズムを追い風に

一般社団法人日本貿易会 副会長 三井物産株式会社 社長
安永 竜夫

2015年の世界は、米国をはじめとする先進国の経済が総じて回復基調を維持する一方で、中国の減速に引きずられる形で新興国の多くが成長ペースを落とし、全体としては、いささか精彩を欠いていたという印象を否めません。

しかし、そうした中、将来に向けた明るい動きも少なからずありました。日本の産業界においては、経済活動に関する国際的な共通ルールの枠組みと位置付けられるTPPの交渉が10月に大筋合意に至ったことが、その最たるものといえるでしょう。TPPについては、参加各国の経済の発展、活性化に向けた重要な要素になり得ると同時に、将来的には参加国の拡大と、同様の枠組みが増えていくことによって、世界的に企業活動を活性化する端緒となることも期待できます。

2015年には、その他にも、ギリシャへの国際的な支援や、イランとの核協議、さらには12月のCOP21でも地球温暖化対策の新枠組み「パリ協定」が採択されるなど、国家間の合意が相次いで形成されました。もちろん、形成された合意の内容自体は、それぞれ国益を背負っての交渉の結果であり、実際に発効するまでには紆余曲折も予想されます。また、ウクライナや南シナ海の問題、ISのような国際的なテロ組織への対応、さらにはその根源でもある中東地域の安定の回復など、国際的な問題は数多く残っています。

しかしながら、今日の国際社会が、国ごとの利害、とりわけ経済状況が大きく違い対立しがちな先進国と新興国の間の利害を調整して、全体として利益のある合意を形成できるだけのダイナミズムを有していることを確認できたことは、2015年の大きな収穫であったと思います。合意がなされたことで状況は大きく動き始めるものと考えられ、そこから生じる変化の風に乗ることは、企業にとっては事業の成功、業容の拡大に直結するでしょう。

そのためには、従来以上に、変化への感度を高めていくことが不可欠ですが、幸いにして商社のビジネスは世界のさまざまな地域に、また極めて幅広い領域に及んでいます。2016年は、多岐にわたるそれぞれの現場で感得された風の流れを集約・分析して戦略を整え、世界のダイナミズムを追い風にして、さらなる飛躍を目指していきたいと考えています。

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