日本貿易会常任理事に聞く 2018年の展望

稲畑産業株式会社 社長稲畑 勝太郎
岩谷産業株式会社 会長 兼 CEO牧野 明次
兼松株式会社 社長谷川 薫
興和株式会社 社長三輪 芳弘
CBC株式会社 社長圡井 宇太郎
JFE商事株式会社 社長織田 直祐
蝶理株式会社 社長先濵 一夫
長瀬産業株式会社 社長朝倉 研二
日鉄住金物産株式会社 社長樋渡 健治
阪和興業株式会社 社長古川 弘成
株式会社日立ハイテクノロジーズ 社長宮﨑 正啓

2018 年の世界経済の展望および経営の抱負等について、日本貿易会常任理事へアンケートを実施しました。
① 2018年の経済、ビジネス環境を展望する上で、注目する要因(けん引・懸念材料)
② 2018年に注力する点および経営の抱負
(社名五十音順)

稲畑 勝太郎 稲畑産業株式会社 社長


稲畑産業株式会社 社長
稲畑 勝太郎

①予想通りに内向き傾向を強めるトランプ政権の動向による地政学的なリスクの高まりを懸念する。一方で、長期政権への足場を着実に固めつつある習近平体制の下、安定成長期に入った中国経済は、当面は世界経済のけん引役を果たすものと期待する。また、上昇基調にはあるが、原油価格が比較的安定的に推移していることも経済的にはプラス材料として捉えている。

②中期経営計画の2年目に当たる今期は、飛躍的な成長を可能にするために足腰を強化する年度と位置付け、まずグローバル経営インフラの高度化を最重点項目として推進する。また、重点分野と位置付けている環境・エネルギー、自動車関連、農業など長期的な取り組みが必要なテーマには積極的に経営資源を投入し、育成を図りたい。

牧野 明次 岩谷産業株式会社 会長 兼 CEO


岩谷産業株式会社 会長 兼 CEO
牧野 明次

①北朝鮮、中東などの情勢不安、国内の人手不足による景気拡大阻害などの懸念材料はあるものの、堅調な世界経済を背景に、LPガス等エネルギー価格の安定と輸出産業の好調が継続する。内需においては消費の回復がやや弱いものの、自動化・AI等の企業投資、東京五輪に向けたインフラ投資の拡大が成長をけん引すると考えられ、先行きは明るい。

②総合エネルギー事業者として、LPGについては、中東と米国との調達のバランスを取ることで安定・安価な供給に努める。また、究極のクリーンエネルギーとしての「水素事業」を全力で進め、環境問題にも貢献すべく、日本国内にとどまらず、グローバルな活動を行う。

谷川 薫 兼松株式会社 社長


兼松株式会社 社長
谷川 薫

①2020年東京オリンピック・パラリンピックを控えたインフラ需要の盛り上がりや、海外経済の回復を受けた輸出の増加に期待する。半導体などIT関連輸出の高い伸びは一服すると思われるが、AIやIoTによる新たな半導体需要が市場をけん引するだろう。北朝鮮や中東情勢の緊迫化などの地政学的リスク、欧米の政治的混乱、中国経済の下振れなどは注視している。

②現在推進中の中期ビジョン「VISON-130」の最終年度を迎える。成長につながる通過点と捉え、目標達成に向け兼松グループ一丸となって取り組む。強みを有する事業分野やそれぞれの専門性を活かし収益基盤の拡大を図るとともに、有効な投資やM&Aによる事業拡大も進める。また、兼松の経営資源として最も重要な人材の育成にも注力する。

三輪 芳弘 興和株式会社 社長


興和株式会社 社長
三輪 芳弘

①北朝鮮、中東など心配は多いが、特にEUは目が離せない。2019年3月に向けたBrexitによるサプライチェーンへの影響や、規制対応など交渉状況を見ながら機敏な対応が求められる。一方、交渉全体で妥結に至った日本・EUのEPAで大きく広がるチャンスを生かす準備も欠かせない。またAI、IoTなどのテクノロジーが産業構造の変動をけん引していることを念頭に、本格活用を促進することも2018年のテーマと考えている。

②デジタル革命によって産業構造が大きく変動しようとしている。脅威となる競争相手がどこから出現するか分からない世の中だ。AIやIoTはそういう破壊的パワーを持ったイノベーションである。当社は「健康と環境」をテーマとしているが、2018年はこのテクノロジーを自社ビジネスに取り込み、大胆な事業変革にチャレンジする年になるだろう。

圡井 宇太郎 CBC 株式会社 社長


CBC 株式会社 社長
圡井 宇太郎

①2018年の世界経済は、2017年同様に緩やかながら穏やかな回復基調が続き、国内においても安定政権の下、景気は堅調に推移すると見込まれる。一方、懸念材料としては、日米欧の金融政策転換による金利引き上げの程度や資産圧縮への方向性がやや市場との対話に欠けたものになった場合の混乱、米国トランプ政権の不安定性と通商交渉の動向、地政学上のリスク、特に北朝鮮情勢については特段の注意が必要である。

②医薬関連事業は伊・子会社の医薬品製造工場で高活性対応設備が整い、2018年春より本格稼働し一段の事業拡大を見込むとともに環境対応型製剤事業(IPM/総合的病害虫管理)も市場拡大につき、さらに注力していく。また「INNOVATION : Enter a Different world」をキャッチフレーズに、既存ビジネスと全く異なる新たな事業を開発すべくロボット・介護・AI・関連事業等に積極的に投資をしながら、ニッチでユニークな事業の確立を目指していく。

織田 直祐 JFE 商事株式会社 社長


JFE 商事株式会社 社長
織田 直祐

①国内マーケットは自動車や建機・産機を中心とした製造業の好調に加え、首都圏再開発案件が本格化しており、引き続き堅調に推移すると思われる。一方、世界では、特に中国が過剰生産能力の削減や環境対策を強化しており、需給バランスの改善が期待されるものの、各国の保護主義的な動きもあり、引き続き動向を注視していく必要がある。

②当社グループが次期中期経営計画をスタートさせる節目の年となる。現在策定中の次期中期経営計画では、好調な現状の「足元固め」と次の成長に向けた「攻め」の両立に取り組み、景気や市況等の環境変化にかかわらず、安定的に収益を上げられる体制を構築し、JFEグループへの貢献度を引き続き高めていく。

先濵 一夫 蝶理株式会社 社長


蝶理株式会社 社長
先濵 一夫

①米国経済にけん引された世界経済の堅調さは継続すると思われるが、経済・貿易政策の動向に引き続き注視していく。また、中国および新興国経済も拡大基調にあるが、中国では環境規制強化等により事業活動への影響が懸念される。一方、国内経済は、企業業績の好調さを背景に個人消費は回復基調にあるが、衣料品等の一部消費財市場は伸び悩みが見通される。

②2017年度から3ヵ年の中期経営計画「Chori Innovation Plan 2019」がスタートした。その中間年度として基本戦略である「連結経営基盤強化」「新規開発・事業投資、M&A」「コーポレート・ガバナンス」「人的基盤強化」を推進し、グローバルに進化・変化し続ける企業集団を志向し、最高益の更新に挑む。また、設立70周年を迎え、働き方改革や業務の生産性UPを推進し、職場環境の改善に取り組む。

朝倉 研二 長瀬産業株式会社 社長


長瀬産業株式会社 社長
朝倉 研二

①世界経済は全体的に穏やかな回復基調で推移することを期待する。けん引材料は、半導体やディスプレーを中心とするエレクトロニクス業界、電動化・自動運転化に向けた自動車業界の他、AIやIoT等のテクノロジー関連分野を見込む。先進国の極端な経済・金融政策や、北朝鮮をはじめとする地政学的リスクは懸念材料。国内は、雇用環境とTPPの影響に注目。

②2016年度にスタートした中期経営計画「ACE-2020」は3年目を迎えるに当たり、各施策のPDCAを着実に行い、目標達成の実現性を上げる。「収益構造の変革」および「企業風土の変革」の基本方針を継続し、当社の注力領域であるエレクトロニクス分野、ライフ&ヘルスケア分野への積極的な資源配分を行う一方、全社運営の効率化を一層高めて経営資源を確保する。

樋渡 健治 日鉄住金物産株式会社 社長


日鉄住金物産株式会社 社長
樋渡 健治

①海外において政治の不安定と経済の安定の混在が継続するものと想定(米国内における価値観の分断、EUの不安定な政治状況、北朝鮮および中東の地政学リスク。一方、経済は安定成長)。国内は安定した政治情勢の中、堅調な内需と相まって世界経済の好影響を受け、低位ながら安定成長が継
続するものと考える。


1. 現中期計画の最終年度、そして次期3ヵ年中期計画の開始年度。現在の景気動向を踏まえた需要を的確に捕捉する一方、急激な景気下降リスクに対しても備える。
2. コンプライアンスの遵守、安全の再確認と徹底。
3. 働き方改革の実行と企業の成長の両立を図っていく。

古川 弘成 阪和興業株式会社 社長


阪和興業株式会社 社長
古川 弘成

①米国はトランプ体制に政治的な不安要素を抱えるが、世界的な景気回復を背景として成長を維持していくものと思われる。中国は強固な習体制の下、国内の景気後退リスクを抱えながらも海外に向けて「一帯一路」構想をさらに推し進めていくであろう。一方、日本は地政学的なリスクに直面しながらも、オリンピック開催前の民間需要が支えとなり経済成長を持続するが、効率化、省力化で業務の質を上げ生産性向上を目指す大きな波が押し寄せる年になると考える。

②1年延長した第8次中期経営計画で唱えるスローガン(STEADY、SPEEDY、STRATEGIC)に基づく成長シナリオを着実に遂行することにより、目標の早期達成を目指す。また、芽傷(めきず)つけることによりビジネスをタテからヨコへ展開して、さらなる会社の成長を図る。AI(人工知能)やRPA(ロボットによる業務自動化)機能をHKQC(業務の品質向上)活動の中に組み込み、生産性、効率性を高めていく。

宮﨑 正啓 株式会社日立ハイテクノロジーズ 社長


株式会社日立ハイテクノロジーズ 社長
宮﨑 正啓

①日本では堅調な個人消費や企業の設備投資の増加から景気回復の継続を期待している。米国でも雇用増加等を背景に景気回復が持続すると思われるが、経済政策の動向には注視する必要がある。欧州では英国のEU離脱交渉の動向による影響が懸念され、アジアでは中国経済の減速が懸念される。

②2018年は、2016年4月に日立ハイテクが策定した「中期経営戦略」の最終年度を迎える。これまでの投資の成果を刈り取りつつ、引き続き成長戦略投資を実行することで将来に向けた成長の礎を形成する。お客さまから求められる価値の変化を察知し、お客さまの経営に資する価値を提供し続けることで、社会から信頼され、必要とされる企業を目指す。

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