人が未来をつないでいく

一般社団法人日本貿易会 副会長 住友商事株式会社 社長
中村 邦晴

2015年を振り返りますと、数十年ぶりという長いスパンでの出来事が印象に残りました。

国際政治の舞台では、イラン核協議をめぐる最終合意により長年敵対関係にあった米国とイランが36 年ぶりに外交上の歩み寄りを見せた他、米国とキューバは54 年ぶりに国交を正常化させました。両国に対する経済制裁が完全に解除されるまでにはまだ時間がかかるとみられますが、今後の進展を期待を持って見守りたいと思います。

一方、経済面では、日経平均が一時2 万円台を回復し、IT バブル時の高値を18 年ぶりに上回り、円ドルレートも125 円台と13 年ぶりの円安水準を付けました。訪日外国人の急増で日本の旅行収支が55 年ぶりの黒字に転じるなど、年前半は明るい話題が多かったものの、年後半はいわゆる「チャイナ・ショック」をきっかけに新興国リスクが一気に高まりました。2016年も、中国の金融・経済情勢が最大のリスク要因であり、バランスシートの弱い新興国の情勢には引き続き注意が必要と思われます。

通商面では、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が大筋合意に至りました。1993年のウルグアイラウンド以来の大型の通商協定となる TPPは関税だけでなく国際的な企業活動に関する広範な分野に関し、新たなルール作りを主導したという点で意義深く、まさに21世紀型の経済連携協定です。発効すれば、市場アクセスとともに投資環境の改善を通じ、参加国全てにウイン・ウインのメリットをもたらすスキームであり、われわれにとっては新たなビジネスモデルやバリューチェーンの可能性が出てくると期待しています。今後は TPPへの参加を希望する国が増えると予想される他、中国やインドを含む東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、日欧EPA、日中韓FTAなどのメガ FTA交渉にも弾みがつくことが期待されます。

2015年秋に英国で開催されたラグビーワールドカップでは日本代表による24年ぶりとなる歴史的勝利がありました。ゲームの流れの中で、役割や特性の異なるプレーヤー一人一人が自ら果たすべき役割についての意識をしっかりと持ち、ボールをつないでいく姿は、まさに日本企業の総合力に相通ずるものを感じました。

2016年はリオデジャネイロ五輪開催の年です。参加する競技者一人一人にとっては自らの実力を試す絶好の機会であると同時に、4年後に向け、己の弱みを克服し、強みにはさらに磨きをかけ、世界で戦える技量を身に付けるための新たな努力の始まりともいえます。2020年東京五輪での活躍につながるさまざまなドラマが生まれることを期待しています。

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