年頭所感

一般社団法人日本貿易会 会長
伊藤忠商事株式会社 会長
小林 栄三

新年あけましておめでとうございます。

日本が通商面でのリーダーシップを発揮

当会は、2017年に創立70周年を迎えました。この間、創立以来の使命である貿易・投資の振興に力を入れ、最近では、TPPの早期実現のために、他の経済団体とも連携して提言・要望活動を続けてきました。

2017年を振り返ると、米国で1月に誕生したトランプ政権がいきなりTPP離脱を決定するという、波乱と不安に始まった一年でした。しかし、その後は、政府交渉関係者のご尽力のかいあって、7月には日EU EPAが大枠合意。さらに11月には、TPP11が大筋合意となりました。いずれも、広範囲に高水準な貿易・投資の自由化を進める、いわゆる「21世紀型」の特徴を備えた経済連携協定であり、多くの国々を包含するメガFTAとなります。

特にTPP11は、将来的な米国の復帰のみならず、他国の新たな参加をも想定した開かれた協定となっており、日EU EPAと併せて、自由、民主主義、法の支配、市場経済という共通の価値観・原則をベースとしたルールを、広く世界に普及させていくという意義も持つものです。

TPPは、トランプ政権が離脱を決めた時点では「死に体」になったと悲観する向きが多かったものの、そこから、日本政府がリーダーシップを発揮して11ヵ国をまとめました。最近は、米国が保護主義に傾斜し、欧州ではBrexitを巡ってEUと英国の交渉が難航するなど、世界経済は貿易・投資自由化の旗頭を失った感がありました。しかし、日本は、その空白を補う重要な役割を果たそうとしており、貿易業界としては、2018年も、期待を込めてこれを支援していきたいと考えています。TPP11、日EU EPA共に、一日も早い発効を願っています。

「内なるグローバル化」を進めよ

次に、国内に目を転じると、日本経済は「アベノミクス」の下で緩やかな成長を続けています。景気回復局面は2012年12月から途切れずに続き、高度成長期の「いざなぎ景気」を超えて戦後2番目の長さとなっています。

このように景気回復が続いたことにより労働需給が逼迫(ひっぱく)してきていますが、その背景にあるより大きな構造要因として、少子高齢化の進行や人口減少があります。既に、対応は待ったなしの状況にありますが、こうした中でも日本が成長力を維持するためには、海外から有能な人材や優れた技術を持つ企業を呼び込んでくることが重要です。海外から、ヒト・モノ・カネ・情報を受け入れること、いわゆる「内なるグローバル化」が進めば、そこから生まれる多様性が新たなイノベーションの呼び水となり、日本経済の生産性向上に寄与することが期待されます。人工知能やIoTなど技術革新の大きなうねりが押し寄せていることを踏まえれば、これまで以上にイノベーションが重要になってきており、貿易業界としても、海外人材の活用や外国企業との協業が不可欠となっています。

しかし日本では、輸出や対外投資、海外への拠点展開など「外へのグローバル化」の進展に比べると、こうした「内なるグローバル化」は残念ながら非常に立ち遅れています。そこで当会では2015年に特別研究会を設置、「内なるグローバル化」促進のための方策について、制度面、人事面など多角的に研究・議論を重ねてきました。2017年10月にはその成果を書籍として発刊、創立70周年記念シンポジウムにおいてもこれをテーマの一つとして取り上げました。

先に挙げたメガFTAに象徴される21世紀型の経済連携は、貿易のみならず、投資や人の移動までも円滑にするものであり、「内なる」と「外へ」の双方向でのグローバル化を促進するものです。「通商自由化」と「双方向でのグローバル化」が両輪となって日本経済を活性化していけるように、当会としても、提言等の活動を引き続き積極的に進めていきたいと考えています。

貿易会、次の10年へ

2017年、創立70周年の節目を迎えた当会は、2018年からは、次の10年へと進んでいきます。

過去10年を振り返れば、リーマン・ショックに象徴される世界金融危機や東日本大震災といった大きな苦難、その影響を受けた資源価格の乱高下などを経験しました。多くの国々ではこれらの試練を乗り越えて、現状、世界経済は順調に拡大しています。しかしその一方で、北朝鮮や中東においては地政学リスクの高まりが見られ、貿易業界では、それに伴う経済制裁への適切な対応、安全管理、サイバーセキュリティなどの重要性が増しています。また、経済・通商面においても、米国の通商政策動向、Brexitの行方、新たな経済連携の詳細内容、インフラ輸出を巡る海外情勢、内外の税制改革など、注意が必要な問題はますます増加しています。

当会としては、先に挙げた「通商自由化」「双方向でのグローバル化」の推進に加えて、会員各社・団体の抱えるこれらのニーズにもしっかりと応えて、その使命を果たしていきたいと考えています。引き続き、日本貿易会の活動に、ご支援をよろしくお願いいたします。

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