日本のリーダーシップと商社の役割

一般社団法人日本貿易会 副会長 豊田通商株式会社 社長
加留部 淳

2015年を振り返ると、不安定な世界情勢に拍車が掛かった年であったかと思います。米国経済には底堅い雇用と内需主導による消費拡大が見られました。しかし、欧州では経済回復が見られたものの、パリ連続テロやEUでの移民政策など先行きの懸念材料が浮上しました。また中国ではこれまでの急成長から「新常態」といわれる新たな成熟化へ移行の下、経済成長は緩やかになりました。資源安も相まって、この結果、多くの新興国経済は減速に歯止めがかかりませんでした。一方、日本経済はデフレ基調から完全に脱却できず、全体として基調の弱さが見られ「不透明な中の踊り場」であったといえます。

一方2016年は、私たちを取り巻く外部環境は依然として先行き不透明ですが、それでも変化をチャンスにできるさまざまな機会が見られます。国際的には、2015年10月のアトランタ閣僚会合でTPPの大筋合意を受けたことで、2016年は参加各国との経済・貿易連携が推進されるでしょう。また豊富な資源と拡大する市場を背景に高い経済成長を遂げるアフリカでは、第6回アフリカ開発会議(TICADⅥ)がケニアで開催されます。アフリカ各国に深く関わることとなった当社にとっても、アフリカ諸国との連携と課題解決に向けた貢献を視野に活動の領域を広げていきます。一方国内では、5月に三重県で主要国首脳会議・伊勢志摩サミットが開催されます。近年、経済以外の分野においても「日本」に対し国際社会の評価が高まっているといわれます。サミットにおいてもグローバルな課題解決のために、建設的な議論を通じた日本ならではの調和を重視したリーダーシップに期待しています。

世界の「人・モノ・カネ・情報」は、もはや国境を越えて「ボーダーレス」の方向に動いています。このように既存の概念がどんどん変化している時代にこそ、商社として地に足を着けそれぞれの現場に適した対応が求められます。これまでの競争力で市場をリードする「力のリーダーシップ」から、日本の強みである長期的な観点で参加者の相互理解を追求しとりまとめる「調和型のリーダーシップ」を発揮していく絶好の機会と考えます。世界が直面するさまざまな課題の具体的解決のために、商社の強みであるグローバルなネットワークを活かし、世界の国・企業・人々を結び付ける力を発揮していくことが、いま商社に求められています。

2016年は、世界が、日本のそして商社の変化に順応する能力に注目し、調和と連携を意識した「強みを発揮する年」になると確信しています。

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